『おててつないで』
目の前にある宍戸さんの背中。
理由もなく毎日と言っていいくらい一緒に帰るようになってから、毎日見つめている気がする。
だって、彼はなぜか俺よりも少し前を歩くから。

年の瀬もだんだんと迫ってきて、どんどん寒くなっていくこの季節。
マフラー、手袋、コート、カイロ…完全防備な俺に比べて、気休めのようにマフラーしかしてない宍戸さん。
……寒くないのかな?

「長太郎?どうした?」
「ぇ、と…宍戸さんは寒くないんですか?」

俺の前を歩く背中にちょっと駆け寄って隣に並ぶ。
上目遣いで宍戸さんを見つめれば、なぜか頬を赤くしながら宍戸さんは俺に言葉を返す。

「寒くないわけねぇだろ」
「じゃあ、なんで手袋とかしないんですか?」
「防寒具が嫌いだから」

即答、って感じ。
防寒具が嫌いって…、そう言えば日吉もそんなこと言ってたかも。
ごわごわする分厚い感じが嫌なんだって。
…そうとは知らず、俺は日吉の誕生日にマフラーをあげちゃったんだけど。
それでも「貰った物は使う」って言ってくれた日吉は意外と優しい。

「なに笑ってんだよ」
「ちょっと日吉のこと思い出して…」
「…長太郎は日吉を思い出すと笑顔になるんだな。知らなかった」

なぜか怒ったように俺から目を逸らす。
どうしたんだろう?
俺、なにか怒らせるようなこと言ったかな…

「ぁの、宍戸さん、ごめんなさぃ…」
「………………じゃあ」

なにが悪いのかわからないけど、自然と謝ってしまったら。

突然、抱きしめられた。

「えっ、ちょ…!宍戸さん!?」
「んー…あったけぇ…」
「へ?」
「長太郎の身体って、すげぇあったけぇ…」

確かに俺は子供体温だけど!!
だからって往来で抱きつく必要なんてないと思います!!
ぴとりと、くっ付いた宍戸さんが楽しそうに笑って。

「赤くなって…。可愛いな、お前」
「だってっ…!…ひああっ!?」
「本当にあったけぇ…」

俺のジャージを宍戸さんが捲って、シャツの中に冷たい手が侵入してきた。
突然のことに奇声を上げて、腕の中にいる宍戸さんを抱きしめてしまう。
だって、なんか…ぞわぞわ、する…。

「ひ…や、だぁ…!つめたっ…んんっ…!」
「えろ…」
「やっ、!もう、離してくださいよ!!」
「はいはい」

本気で抵抗すれば、あっさりと宍戸さんの手は俺の服から出て行った。
ジャージの前を整え、コートをちゃんと直す。
…なんか、襲われたみたい。

「あーぁ、手ぇ出したら寒くなっちまった」
「う、だって…」
「…じゃあ、お前の手、貸せ」
「手…?」
「身体があんなにあったけぇなら、手もあったけぇだろ?」

確かに俺の手も、人に比べればあったかいと思う。
宍戸さんが手を差し伸べるから、その手に手を重ねようとして思いついた。
自分の左手の、宍戸さんと手を繋ごうとした方の手袋を外して宍戸さんに差し出す。

「手袋?」
「俺と繋がない方に使ってください。…宍戸さんと手を繋ぐなら、そのままがいいから…」

そう告げれば頬をさっきよりも顔を真っ赤にした宍戸さんが、優しく優しく微笑んだ。

 お絵かきビビエスにて、鏡花様にご投稿いただいたものです。
 素敵なお話をありがとうございました!