04−手探り / ひな 
 陽が沈み、一段と冷え込んだ風が吹きつける帰り道。
今日も練習を終えた宍戸と鳳は、他愛の無い話をしながら歩いていた。

 先日、高等部への進学試験が終わり、宍戸はすっかりテニス部に返り咲いていた。
理由なんて取ってつけたようなものだが、理由は「体が鈍ってんだよ」らしい。
よっぽど悪い成績でない限り、高等部への進学は落ちることは無いとは言え、引退した部にテニスをしに来るなんて、なんて後輩思いなんだと、隣を歩く鳳長太郎は感激していた。

嬉しそうににこにこと笑って談笑しながら隣を歩く後輩の姿を見つつ、宍戸は複雑な心境で居た。
何もないように見えるが、これでも一応「おつきあい」しているのだ。
そして一週間後には、バレンタインデー。
そう、誕生日なのである。

考えて、頭が真っ白になったのは秘密だ。
何せ生まれてこの方、誕生日にプレゼントなんて、親から貰ったことしかない。
大切に愛している後輩だからこそ、何かしてやりたいと思う宍戸だが、情けないことに何も思いつかなかった。

「なぁ、長太郎」

「あ、はい、何ですか宍戸さん?」

本当に楽しそうに家の猫の話をしているところ悪いとも思ったが
勢い良く話をぶった切っても嫌な顔ひとつしないところに、人の良さが滲み出ている。

言っておくが惚気じゃない。

「一つ願いごとが叶うとしたら、何を願う?」

「へ?」

遠まわしに聞くなんて、そんな器用なマネができるんだったら最初からしている。
もうここは真正面から聞くが吉だ。
言葉を理解するために、一瞬黙り込んだ長太郎は、沈み行く陽に一度だけ目をやって

「世界平和です」

と、告げた。







無 理 だ 。







無茶言うな。
なんとも大層な願いに思わず複雑な心境が出てしまったのか、長太郎に心配そうな顔をされてしまった。

「す、すみません。あんまり中学生らしくないですよねっ」

そういって肩を落とす長太郎の頭をわしわしと撫でてやる。

「違ぇよ」

結構、単刀直入に聞いたつもりだったんだが、流石は俺の惚れた後輩。

「じゃぁ、言い方をかえる」

「?」

「お前の幸せってなんだ? あ、世界平和と俺と一緒にいる時間とテニスはナシな?」

そりゃもう当日は嫌だと言われようが一緒に居るつもりなんだから、他だ他。
次の問いは、すぐに答えは返って来ず、隣を見ると神妙な顔で悩んでいた。

「先輩とテニスを省かれたら悩みますね……うーん」

ここまで絞ってやれば、流石に答えは見えるだろうかと、横顔を見ながら思う。

「あ!」

ようやく思いついたのか、ハッと顔を上げて目を輝かせる長太郎は
その幸せを思い浮かべているのか、本当に幸せそうに微笑む。

叶えられる願いだったら、俺が何でも叶えてやるよ!
さぁ、言え長太郎!

「テニス部の先輩がみんなと一緒に居る時っすかね」

「よっし、任せろ!それなら叶えてやれる!」

「へ?」

キタコレとばかりに小さくガッツポーズした宍戸に、鳳は目を丸くして足を止める。

「……えええええっ!!!!」

「2月14日は全員部室に集合だな、ついでにそのまま跡部のマネーで遊びにいくか」

「跡部さん、忙しいと思うんですけど!」

そんな問題どうってことねぇよ。
お前の誕生日なんだ、地を這わせても来させてやるぜ!

やっぱ、手探りなんて俺の柄じゃねーよな。




 ひなさん作の宍鳳です。
 実に素敵な宍鳳を書いていってくれました。
 ひなさん、ありがとう!また今度宍鳳語ろうね!!

 せんか@管