一人占め / せんか
 長太郎と付き合うようになったのは、つい二週間前の事だ。
 俺は、とある事に悩んでいた。

 部活の時はもちろん、学年が違うからなかなか普段、会う機会がない。
 休みの日や部活が休みの日も、レギュラー皆で遊びに行ったりして。


 つまり、長太郎と二人きりになる時間がない!

 朝と夕方は……残念ながら、俺と長太郎は学校から帰る方向が全く逆向きだ。
 送ってやるよとか、そういうカッコイイ事が言えればいいんだが、どうしても、口から出て来ない。用事もないのに、しかも長太郎みたいなでかい男を心配だから送ってやるよなんて……言えるわけない(むしろ送られるなら俺の方かもしれないという事実に軽くへこむ)。




 だから、俺はデートを申し込んだ。
 待ち合わせはありがちだけど、駅前の有名な銅像前で。

 ありったけの勇気を振り絞って言えたのは、「どっか遊びにいこうぜ」の一言だけだったけれど。
 なんとか、週末の、部活もオフの日に、約束を取り付ける事が出来た!

 これで長太郎を一人占めする事が出来る……!!!

 舞い上がりまくった俺はその一週間テンションが上がりすぎて周りからかなり引かれたが、そんな事言われても嬉しいのは嬉しいのだからどうしようもない。

 そして当日、朝5時に起床した俺は2時間はかけて入念に準備をした。(ちなみに待ち合わせの時間は12時だ)
 あまり早く行き過ぎるのも気持ち悪いと思い。そわそわと気を紛らわして、ちょうど5分前に着くように家を出る。

 たまに寝癖のついてる髪型も今日はバッチリだぜ!よし、行くぜ!!!








「おー宍戸、遅いやないか、待ちくたびれたわ」
「もうちょっと早く来いよなー!」
「えっと宍戸さん、おはようございます……!」


 とりあえず、俺はその場に崩れ落ちた。

 そして、10秒で復活。


「待ちくたびれたってお前ら、まだ待ち合わせ5分前じゃねーか!!っていうかな ん で こ こ に 居 る ん だ よ !!」

 俺の激昂があたりに響き渡り、道行く人が振り返るが構っていられない。

「……なんでって、今日はダブルス組で遊びに行くんやろ? 鳳から聞いたから来てやってんで」
「連絡、後輩に押し付けんなよな!直接言えばいーじゃん!」
 俺の全く想定外でそこに居る、忍足と向日がなんかゴチャゴチャと言っている。いや、ダブルス組とかそんな事は全く言ってないぞ、俺は!!


「……長太郎……?」
 ギギギ、と震えながら長太郎の方に顔を向けると、あわあわと震えて縮こまる姿。
「す、すみません……あの、でも、」
 
「……いいんだ……俺がはっきりしなかったのが悪いんだよ、うん」
 確かに、二人っきりで、とかデート、とか、他の奴を誘うなとは言わなかった。よくレギュラーの面子で遊びに行ったりしているから、こういう流れでも確かにおかしくない。おかしくはないんだけどよ……!!

 ずーんと暗ぁ〜く沈んでいる俺に、長太郎は更に慌てたようだった。

「お、俺、あの、緊張しちゃって……、あの、お二人には途中で帰ってもらえるようにいってありますから……!!」
 見捨てないで、とそんな瞳で縋られてしまい。俺はうっかりそのまま長太郎を抱きしめそうになった。
 危ない危ない、ここは公共の空間だ!

「そ、そういう事かよ……びっくりした」
「すみません、本当に……」
 あの二人がどこまで気を利かせてくれるかは不明だが、何にせよ、この後長太郎一人占めタイムを作ることは出来そうだ。長太郎の気持ちさえ分かれば、いつまでもうじうじ悩んでいるなんて俺らしくない。
 すっかりしょげてしまった長太郎の背中をぽん、と叩いてやった。

「その代わり……あとで、埋め合わせしてもらうからな」
「う、埋め合わせっすか……?」
 俺、金ないっすよ、と困った顔になりながらも、長太郎は少し安心したようだった。

 安心したところで悪いが、そんな楽な埋め合わせで許してやるつもりはない。
 色々と『埋め合わせ』の内容に思いをめぐらせ、俺は思わずにやりと顔を歪ませた。


「よし、行くぞお前ら!」
「はい、宍戸さん!」
「何だよえらそーに!宍戸のくせに!」
「おい、誰が何だって?」
「二人とも落ち着きいや……で、どこいくねん」

 まあ、とにかくなるべく早くこの二人を撒いちまうのが先決だよな……。

 時刻はまだ12時を過ぎたばかり。
 天頂に輝く太陽は、俺の前途を祝福しているかのようだった。



終われ。
 管理人作の駄文でございます。
 少しでも萌えていただけたなら幸いです……。